民事信託(家族信託)では、委託者から受託者に財産を信じて託し、受託者が当該財産を信託目的達成のために管理・処分していくものです。
信託財産は委託者の手元から離れるため、仮に、委託者が破産(倒産)をしたとしても、信託財産は影響を受けないとされています。
このように、倒産リスクから隔離する機能が民事信託(家族信託)にはあり、これを倒産隔離機能と言います。
また、信託財産を管理処分する受託者についても同じで、受託者が破産(倒産)をしたとしても信託財産は影響を受けません。
信託財産は受託者が所有権を有しているけれども、受託者の固有財産とは別物として扱われるという特殊性があるため、信託財産は独立した財産であると言われます。
これを「信託財産の独立性」と言います。
破産(倒産)の他にも、例えば、受託者が借金を負っていて返済が滞り、債権者が差し押さえをしようとした場合、受託者が管理している信託財産(※)に対しては差し押さえができません。
※差し押さえ対象が銀行の預金口座の場合、信託財産である預金を管理する口座が信託専用口座なのか、信託口口座なのかによっても結論が異なる部分です。詳しくは「信託財産である現金の管理方法(信託口口座の必要性)」をご覧ください。
他にも、受託者が死亡したような場合、受託者の固有財産である銀行口座は凍結されますが、信託財産として受託者が管理していた信託口口座は凍結されずに、信託事務をそのまま継続することが可能となります。
信託財産である信託口口座は倒産隔離機能を有するからです。
民事信託(家族信託)の倒産隔離機能によって差し押さえや口座凍結を回避できると言われていますが、裁判実務や金融機関実務がまだ対応しきれていない部分もあり、倒産隔離機能が機能しないケースも現状(2025年2月現在)あるようです。
なお、差し押さえや凍結がされてしまった信託財産に関しては、取下げの手続きや凍結解除の手続きが必要になります。
倒産隔離機能を利用して、委託者が債権者を害する意図を有しながら民事信託(家族信託)を利用した場合、債権者は当該信託の取り消しを裁判所に請求できるとされています。
この時、委託者が詐害の意思を有していたかを受託者が知っていたかどうかは関係なく、債権者は取消権を行使することができます。
信託財産を管理処分するのは受託者です。
一方で、信託財産から生じる利益を受けるのは受益者です。
民事信託(家族信託)を進める場合には、税務上の観点からも自益信託(委託者と受益者が同一の信託)で進めることが通常です。
倒産隔離機能があるからと言って安心をしていても、委託者兼受益者である限りは、受益者の有する受益権が差し押さえられる可能性があります。
委託者としては倒産隔離機能が有効だったけれども、受益者としては受益権を差し押さえされてしまうため、資産防衛策としての思惑は崩れ去ることになります。
①民事信託(家族信託)には倒産隔離機能がある。
②倒産隔離機能によって、委託者や受託者の債権者は、信託財産に対しては差し押さえや競売等ができない。
③裁判実務や金融機関実務の関係で、倒産隔離機能が機能していない現状もある。
④信託事務の中で生じた債権であれば信託財産に対して差し押さえ等は可能。
⑤倒産隔離機能を利用して債権者を害する目的で民事信託(家族信託)を利用した場合には債権者に取り消される可能性がある(詐害信託)。
⑥受益者の有する受益権に対しては差し押さえ可能。
関連Q&A