民事信託・家族信託のミヤシタ相談所

信託Q&A

受託者と信託事務処理費用の関係

家族信託(民事信託)では、信託事務に必要な費用は信託財産の中から支払うことになります。

例えば、自宅不動産を信託財産として設定した場合、自宅不動産に関係する費用(修繕費やリフォーム代、固定資産税等)の支払いは信託事務の一部となりますので、受託者が信託財産に属する金銭の中から支出することになります。

信託財産には現金を入れる必要がある」ということを耳にすると思いますが、上記のように信託事務処理にはお金がかかることが多いためです。
(信託現金をあえて0円で進めることもありますが、基本的には信託財産に現金を入れることをお勧めいたします。)

 

では、信託財産に現金がない場合、信託事務の遂行に必要な費用の支払いはどうすればいいのでしょうか?(※)

信託財産から支弁することができない場合には、受託者の固有財産から支払う必要があります。
つまり、受託者個人のお金で支払うということです。

信託設定時、信託財産に現金がない場合には公証人から現金を信託財産に入れるように要請が入る可能性が高いです。(信託契約書を公正証書で作成する場合)

 

受託者が一旦立替えた後、信託財産からその立替えた分(プラス利息の請求も可能)を受け取ればいいのですが、信託財産に現金がないような場合には償還を受けることができません。

受託者が信託事務処理の費用を支払ったけど信託財産からその償還を受けることができない場合、下記のような対応が考えられます。

 

【受託者の取るべき対応】
① 受益者から償還を受ける
② 受益者や帰属権利者への履行拒否
③ 信託を終了させる

 

 

① 受益者から償還を受ける(信託法48条・49条)
 

受託者は、受益者との合意に基づいて、受益者から費用の償還または前払いを受けることができます。

なお、これはあくまで受益者との合意が必要なので、仮に信託行為(信託契約や遺言書)の中で「信託事務に関する費用は受益者が負担するものとする」というような一方的に受益者に負担を強いる定めはできないと解されています。

また、自益信託(委託者=受益者)のケースで、信託契約の中で受益者に対する償還請求に係る定めがされている場合には、“信託契約”と“費用等の償還”に関する合意が当該契約書の中でされていると解されるので、受託者は受益者(兼委託者)に対して、費用等の償還を請求することが可能であるとされています。

 

② 受益者や帰属権利者への履行拒否(信託法51条)

 

受託者は、費用等の償還を受けることができない場合には、受益者や帰属権利者に対する信託財産に係る給付をすべき債務の履行を拒否することができます。

つまり、受託者は「自分が償還を受けるまであなた達に対する給付履行(信託事務)はしないよ。」と拒むことができます。
但し、信託行為に別段の定めがある場合には、当該履行の拒否はできなくなります。

 

③ 信託を終了させる(信託法52条)

 

受託者は、信託財産から費用等の償還を受けることができない場合には、委託者及び受益者に対して下記事項を通知し、相当の期間を経ても委託者又は受益者から費用の償還を受けることができなかった場合には信託を終了させることができます。

【委託者及び受益者に対して通知すること】
・信託財産が不足しているため、費用の償還又は費用の前払いを受けることができない旨
・受託者の定める相当の期間内に費用の償還を受けることができない場合には信託を終了させる旨