家族信託(民事信託)を利用すれば、遺言書を作成する必要はないのか?
その回答としましては「遺言書を作成する必要がない場合もあるし、遺言書を作成する必要がある場合もある」です。
例えば、全財産を信託財産に組み入れて、生前の相続対策・認知症対策、そして死後の資産承継まで全てを信託でカバーできれば遺言書は必要ありません。
たしかに、信託のみでカバーできるケースも中にはあると思いますが、一部の財産だけに信託を設定する場合や、実務上信託に適さない財産がある場合など、全ての財産について信託を設定することが適さない、又はできない場合もあります。
また、信託の分野ではまだ判例等も少なく、確立されていない要素も多々あるので、その運用に不明確な部分もあるのも事実です。
そのリスクを把握し、そして回避できるような信託を設定する必要があります。
さらには、家族信託ではできないが遺言書ではできること(持ち戻し免除、未成年後見人の指定、など)もあるため、家族信託を利用すれば遺言書を作成しなくてもよいとは一概には言えないところがあります。
家族信託は遺言に代わる制度、と言われたりもしますが、大事なことは、家族信託(民事信託)のメリット・デメリット、遺言書のメリット・デメリットをしっかりと理解し、状況に応じて使い分けをすることです。
遺言書は相続発生後に効力が発生するため、相続発生後の対策にはなりますが、生前の対策にはなりません。
一方で、家族信託は生前の対策や認知症による資産凍結回避等ができますし、相続発生後の資産承継まで定めることができます。
しかし、上記で述べたような不安定要素もありますので、信託は万能な制度ではないという認識を持つことが重要です。
信託を利用するのか、遺言だけで対応するのか、信託と遺言を併用するのか、ご家庭の事情や経済状況等によって、総合的に判断する必要がありますので、その違いを司法書士等の専門家にしっかりと説明してもらうといいかと思います。
(ここでは省略しますが、後見制度を併用することも検討する必要があります。)
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