民事信託(家族信託)は、契約で行う方法や遺言で行う方法などがありますが、契約で行う方法(信託契約書を作成する方法)が一般的です。
(遺言書で行う遺言信託や、公証役場で1人で行う自己信託もありますが、信託契約と比べると圧倒的少数かと思います。)
以下、信託契約にて行う民事信託(家族信託)について記載いたします。
信託契約で信託を設定する場合には、将来起こりうる事態をいくつも想定して内容を検討していきます。
しかし、人生は何が起こるかわかりません。
不測の事態が生じた場合や、心変わりをして信託の内容を変えたいような場合など、当初作成した信託契約書の内容を変更したいというニーズもあるかと思います。
そこで信託法には信託の変更を認める条項が設けられています。
なお、信託の変更には大きく分けて「当事者の合意による変更(信託法第149条)」と「裁判所による変更(信託法第150条)」がありますが、ここでは当事者による合意について述べていきます。
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信託法149条では、信託の変更は原則として委託者・受託者・受益者の合意によって行うことができるとされています。
最初の信託契約は委託者と受託者の2者間の契約により行いますが、信託の変更はそこに受益者も加わり3者の合意で変更が可能とされています。
(ケースとしては自益信託が圧倒的に多いと思いますので、実際は委託者兼受益者と受託者の2者で変更が可能になります。)
一方で、同条には、信託の目的に反しないなどの条件をクリアすれば、受託者や受益者の単独で信託の変更が可能とされていることや、信託契約の中で別段の定めが可能ともされています。
信託の変更は前述したように、基本的には委託者・受託者・受益者の合意によって行うことができます。
また、信託の変更について別段の定め(例:受託者と受益者の合意など)も可能とされており、信託契約書にその旨の条項を設ける場合も多いかと思います。
もし、信託契約書に信託の変更について定めていない場合には、信託法149条に基づいて変更が可能となるだけなので、必ずしも契約書に信託の変更について定めなければいけないというものではありませんが、信託契約書に信託の変更条項を設けることが一般的かと思います。
さて、信託契約書に信託の変更条項を設ける場合には「受益者は受託者との合意により信託の内容を変更することができる」などの定め方をすることも多いと思います。
このような定めは信託法149条4項の「別段の定め」に該当するわけですが、ここで注意しなければいけないことがあります。
上記の例で言いますと、「受益者と受託者で信託の変更ができる」という“別段の定め”を設けたわけですから、受託者や受益者の単独による信託の変更ができなくなる危険性があります。(※1)
つまり、別段の定めを設けることで、その他の方法による信託の変更が制限されてしまうことになりかねないということです。
別段の定め(受託者と受益者の合意など)により信託の変更を行いたい場合、信託契約条項の対策としましては、次のように定めることでより柔軟な信託の変更が可能になります。
※1
信託法149条2項及び3項は、受託者や受益者のみで信託の変更ができる旨規定していますが、その要件として「信託の目的に反しないこと」や「受益者(受託者)の利益を害しないこと」などが挙げられています。
当該要件に該当する場合が判然としないため、後日のトラブルにつながる恐れもあります。
そのため、あえて信託法149条2項及び3項による信託変更を禁止する条項を設けることもリスクヘッジとしては考えられると思います。
信託法第149条(関係当事者の合意等)
1 信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができる。この場合においては、変更後の信託行為の内容を明らかにしてしなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定めるものによりすることができる。この場合において、受託者は、第一号に掲げるときは委託者に対し、第二号に掲げるときは委託者及び受益者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。
一 信託の目的に反しないことが明らかであるとき 受託者及び受益者の合意
二 信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるとき受託者の書面又は電磁的記録によってする意思表示
3 前二項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める者による受託者に対する意思表示によってすることができる。この場合において、第二号に掲げるときは、受託者は、委託者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。
一 受託者の利益を害しないことが明らかであるとき 委託者及び受益者
二 信託の目的に反しないこと及び受託者の利益を害しないことが明らかであるとき受益者
4 前三項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
5 委託者が現に存しない場合においては、第一項及び第三項第一号の規定は適用せず、第二項中「第一号に掲げるときは委託者に対し、第二号に掲げるときは委託者及び受益者に対し」とあるのは、「第二号に掲げるときは、受益者に対し」とする。
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